症状があるところと離れたツボを使う理由
鍼灸の施術をされたことがある方はご存じかもしれませんが、鍼灸師は症状があるところに鍼や灸をしますが、お客様の身体の状態をみながら離れた部位にも鍼灸を施すことがあります。肩こりのお客様に対して「手足に鍼灸施術を行う」などが一例です。
でもお客様からすると、「なんで肩こりなのに手足に鍼灸を?」と思われるかもしれません。そこで今回は、鍼灸師が施術で使うツボや経絡について、少しでも皆さまにイメージしやすくできるよう、詳しく解説していきます。
鍼灸に用いるツボって何?
ではまず、鍼灸に用いるツボについてお話ししていきます。そもそもツボとは鍼を打ったり、灸をすえたりするポイントのことで、正式には「経穴(けいけつ)」といいます。
WHO(世界保健機関)でも現在、361個のツボにその施術効果が認められました。そのため、ツボを使って施術を行うことは非科学的な民間療法ではないことがわかります。
経絡(けいらく)について
東洋医学では人間の生命活動の根源を「気」「血」「水」の3つの要素で成り立っている考えています。気とは簡単に言うと、身体を動かすエネルギーのことです。血は食物から取り入れた栄養素を身体の隅々まで運ぶ働きがあり、水は全身に潤いを与えるとともに体温や代謝の調節を担っています。
つまり、健康とは気・血・水が体内を規則正しく巡っている状態のことで、不足したり滞ったりすると、バランスが崩れて病気になってしまいます。「病は気から」とはまさにこのことです。
この気・血・水のうち、気の通り道と表現されるのが「経絡(けいらく)」です。この通り道は全部で20本あり、メインとなる12本は「正経十二経脈」と呼ばれます。残りの8本は「奇経八脈」といい、メインの経絡に気が満ち溢れると奇形八脈に流れるため、補完の役割を担います。いわば、川の氾濫を防ぐものとイメージしていただければよいでしょう。
そして、その経絡上で気が溜まっている場所がツボ(経穴)です。ただし、よく耳にする足ツボは経絡ではなく反射区と呼ばれ、ツボのように点ではなく面であることが特徴です。この足ツボは鍼灸師が普段使うツボとは異なることを覚えておいてください。
「気」は電車、「経絡」は線路、「ツボ」は駅のイメージ
では、気と経絡とツボの関係をわかりやすく、電車で例えてみましょう。これらはどれも目に見えないものなので、可視化するとわかりやすくなります。ここでは日本各地を走る電車を気、電車が走る線路を経絡、線路上にある東京や名古屋、大阪などの各駅をツボと例えます。
線路上でトラブルが起こって電車(気)の運行に支障が出ると、後方を走っている電車に様々な影響が出ますよね。同様に気がうまく流れないと、身体に痛みや腫れなどの症状が現れます。こうして鉄道にトラブルが発生したときは、駅や駅間に電車を停めて、ダイヤの乱れを調整するでしょう。このような事が、身体で起きているのです。
しかし、身体の場合は一番の原因が隠れていることがほとんどで、自覚する痛みや不調が根本的な原因とは限りません。西洋医学では悪いものを取り除いて改善させようとしますが、東洋医学ではツボを刺激することによって気の乱れを整え、身体のバランスを改善させるのです。
症状に効くツボとは?
ここで本題の「痛む部分と別の場所に鍼灸を施すのはなぜか」を解説します。
通常は肩こりに効くツボは肩、腰痛に効くツボは腰というように、痛みがあるところにその痛みに応じたツボがあるのが基本です。また、肩が凝って痛いときに肩を押したり揉んだりすると楽になるように、触れると症状が改善するところも大抵はツボとなります。
一方で、ツボは症状があるところから離れた場所にもあるのです。例えば、鼻にめんちょうのようなできものができたときは、腕にある「手三里(てさんり)」というツボがよく効きます。
これは鼻と手三里が「手の陽明大腸経(てのようめいだいちょうけい)」という経絡で繋がっているためです。そのため、鍼灸師は症状があるところにも鍼や灸を施しますが、お客様の状態をみながら症状から離れた場所も含めて使うツボを選別・判断しています。
おわりに
東洋医学では表に出ている症状だけではなく、お客様の身体全体をみて施術方針を決めるのが特徴です。その症状は、普段の生活習慣や食生活が原因であることも少なくありません。
あなたも何らかの症状が出てきたときは「何が悪かったかな?」と生活を見直すことが大切です。生活習慣の見直しだけでも症状が少しずつ改善されていくことがあるかもしれません。今回のお話しで、少しでも東洋医学の疑問や不思議が解決できれば幸いです。